「んーーーー。。。ん。」
よく寝た。。身体がばっちり元気を貯めたみたい、すっきり目が覚めた。

高い天井、きらきらと日差しが差し込んでベッドが真っ白に輝いているみたい。

「もうお目覚めですか?」
マレーが隣の部屋から顔をのぞかせた。

「お体はいかがです?」
「うん、なんだかとってもすっきりしてるみたい。
昨日はあんなにぐったりだったのに。マレーさんの飲み物のおかげかな。」
にっこりするディアナにマレーはくすりとほほ笑んだ。

「まあ。。ディアナ様、昨夜はほんとうに大変だったんですよ。」
首をかしげるディアナ。

「覚えていらっしゃらないのですね?
まあ、ディアナ様は酔っていらしたから、無理もないのでしょうね。」
マレーは頬に手を当てて言う。

「酔う?、、だってホットミルクだったんでしょ?」
「ほんの少し、お酒を入れていたんですよ。お疲れが少しでもほぐれるようにと。」
「まあ、そうだったの。。」

「でも、ディアナ様はほんの少しのお酒にもお体が敏感に反応されるようで、そのまま倒れるように眠ってしまわれたのですよ。ほんとにほんっとに、少しのお酒でしたのに。

ディアナ様はお酒はくれぐれも召し上がらないほうがよさそうですわね。」
マレーはうんうん、とうなづきながら昨夜のことを思い出しているようだった。

「あ、、そう。。なんですね。。お酒は飲んだことがないから、、気を付けます。」
「さあさ、では朝ごはんにいたしましょうかね!」

ぱきぱき動くマレーに続いてディアナもベッドから降り、着替えを始める。
≪昨日の疲れはすごかったもんね、私。フランツ皇子は大丈夫だったのかしら?
毎日こんな大変な緊張の連続のお仕事なのかしら。。大変なんだ。。≫

「召し上がった後は、フランツ皇子様に昨夜のお礼をお伝えになってくださいね。ベッドまで運んでくださったのは皇子様ですから。」
「え・・?」
「それから、アイザック様にも。お医者様を呼んだり、介抱するのを手伝ってくださっていたのですよ。」
「ええーー!!?どういうこと?!」

着替えも途中のまま、目を丸め大声を出してしまうディアナ。
「私ひとりではお小さいディアナさまでも、寝てしまっている方を抱えてベッドまでお運びすることはできませんでしたわ。

突然意識を失われたのも、最初はどうしてなのかわからないくらいでしたしね。あまりにもほんの少しのお酒だったので。」
真っ赤な顔で棒立ちしているディアナにマレーは手を止めずに話続ける。

「ディアナ様、お着替えが途中ですよ。あ、それは前と後ろが逆ですわね。ボタン、掛け違われませんようにね。」

ディアナは驚きのあまり、うまく返事が返せないがなんとかとりあえず着替えを済ませた。

皇子に運んでもらっていても気が付かなかったなんて。
酔って倒れてしまっていたなんて。
全く覚えていないなんて。。

恥ずかしい。

どんな顔して倒れていたんだろう。
きっと意識もなかったくらいだから、口をあけたり涎をたらしたり、ひどい顔をしてたかもしれない、、

否定も肯定もできない自分にただただ恥ずかしさと隠れたいような、
昨夜に戻ってそのミルクを飲まないでいたい、、、と思った。


おかげで朝食は手を付けたものの、
何の味もわからないままだった。


お礼を伝えにいかなきゃ。。
ぁぁ、、こんなことって。。。

どこかに隠れてしまいたい。。。





☆☆☆

呼吸を整え、胸の前で合わせた両手をもう一度ぎゅっと握りしめる。
。。よし、ちゃんとありがとうって言わなきゃ。

自分に言い聞かせ、大きく立派な白い扉を叩いた。
こつん、こつん、と音が響く。

すぐに中から反応があって、扉が開かれた。
執事のベンダモンだった。
「これはディアナ様。」
「あの、フランツ皇子様にお会いしたいのですが。」

そういうと、ベンダモンは少しの間を置いてこう返答した。
「…皇子様はご公務中でして、終わるまでどなたにもお会いになれないとのことでございます。
申し訳ございませんが。。」

「そうですか。。ご公務ですものね。わかりました。また改めます。」

ぱたん、閉じられた扉を前にため息が漏れた。
ほっとしたのと、肩から力がどっと抜けたようなのと。
お会いできると思ったのに会えなくて残念な気持ちと。。

ん。。?私、恥ずかしかったはずなのに、、
会えなくて残念なのは、、、
そんな理由でも会えるのがうれしかったのかな?


複雑な気持ちを抱えながら自室に戻るとアイザックが来ていた。
「おはようございます、ディアナ様。よくお休みになられましたか?」
くすり、と笑うその隣でマレーがそそくさと部屋を出て行こうとする。

「何も覚えていらっしゃらないのですってね。」

その一言が言われるや、マレーはぷぷぷ、と笑い声とともに廊下への扉を開いた。
「マレーさん!!話してしまったの?!」
「ふふふ、お茶とお菓子など持って参りますね。」

残された部屋で、アイザックが堪らないようで笑いを爆発させた。

「そんなに笑わなくても。。初めてのお酒で、私も全く何も覚えていなくて。。」
むくれてしまいそうになる。

「でも、介抱してくれたこと、ありがとうございました。」
ぺこり、とお辞儀をした。

身に覚えがないことに更にしゅん、としているディアナはアイザックに可愛らしい妹のように見えた。離れて暮らしている妹のことを思い出した。思わず目を細めて見ていた。

「大丈夫ですよ!」
アイザックはディアナのそばに寄った。
うつむき加減のディアナに、片膝をついて下からその瞳を見上げた。
にこっと微笑むアイザックはディアナを笑顔にしてあげたかった。
すると、ディアナもその顔をやわらかくしてほほ笑んだ。

「これからはディアナ様にはお酒はお勧めしないことに致します。」
ウィンクして見せた。二人は笑いあった。

マレーさんが持ってきてくれたお茶とお菓子で
ちょっとしたお茶会が始まった。