そして――息をのんだ。
見たこともないような顔をしていた。
怒りとも悲しみとも違う。
いやに静かな、暗い顔。
いつも朗らかなリュカの、そんな顔を初めて見た。
「リュカ、戻ろう」
これ以上、聞かせてはいけない。
そう思って、ベルはリュカの手を引く。
意外にリュカは素直について来て、二人は足音をひそめて倉庫に戻った。
沈黙。倉庫に戻ってしまえば、徒弟たちの話し声はすこしも聞こえなくなった。
さっきのことは夢だったのかと思えるほどの静けさ。
遠くに街の喧騒が聞こえる。
「リュカ、あのさ」
沈黙に耐えられなくなって、ベルは言った。
「はしごのひび、僕、見たけど……あれは自然にできたひびだよ。剣で傷つけたり爪で引っ掻いたりしても、あんなふうにならない。ルイがやったわけじゃない。絶対」
事実だった。
あのひびは自然にできたものだ。
剣にしては細すぎて、爪にしては深すぎる。
ルイが傷つけたわけがない。
第一、さっきの話だって、ルイは肯定しなかった。



