「なぁ、ルルー工房のはしごってあれ、ルイがやったって本当か!?」
廊下の向こうのリビング。
そこから若い男の声が聞こえて、二人は動きを止めた。
「えっ、いやあれは……」
困ったような気弱な声は、二人とも知っている。ルイだ。
「はしごに傷入れて、そのうち壊れるようにしたんだろ? えげつねぇな」
非難するような言葉とは裏腹に、男の声は笑っている。
その周りから、他の徒弟たちと思しき笑い声が上がった。
「俺らの仕事を横取りしたんだから、当然の報いだよな」
「ろくに徒弟もいない貧乏工房のくせに生意気なんだよ」
「フレスコが上手いからって粋がってんなよな。技術ばっかり鼻にかけて、あんなもん、芸術とは言えねぇよ」
口々に罵る言葉に、腹の底が冷えていくような心地がした。
震えそうになる手をぎゅっと握りしめて、ベルはかすかな声で「リュカ」と呼んだ。



