「ふうん? じゃあ教えてやるけど、まず第一に親か縁者の紹介と徒弟金がいる。同じ屋根の下に他人を迎えるんだから、身元の知れないヤツなんて論外だ」
そういうわけだから、と、そっけなく言って、青年は去ろうとする。
ベルは慌ててその背中に「待ってください!」と声をかけた。
「せめて親方に会わせてください!」
「駄目だね。親方は忙しいんだ。会わせるだけ無駄」
「デッサンを見るだけでも……」
「あんたのデッサンがどんなに良い出来でも、身元がはっきりしない人間を工房に迎えるわけにはいかないんだよ」
青年は「他を当たりな」とだけ言って、今度こそ足早に去っていってしまった。
その背中を呆然と見送って、ベルはため息をつく。
「仕方ない。他を当たってみよう」
そう意気込んで、ベルは次の工房へ歩き出した。