「親方」


レイエ工房に出向く支度をしているエドガーに、ベルは声をかけた。


ちらりと見ると、リュカとジルはだめになった梯子を片付けていて、こちらの様子には気づかない。



振り返ったエドガーは、もういつもの無表情に戻っていた。



「どうした」


「あの……」



親方には話さなければならない。


ベルの家のこと、素性、――性別も、すべて。


いつまでも騙すわけにはいかない。



そうしなければいつかはボロが出る。


それにそうしなければ、いつまで経っても父に、ルルー工房の徒弟になったことも、

画家として生きていきたいということも話すことができない。



それなのに。



「……いえ、なんでもありません」



すでに出自を隠しているのだ。


そのうえ女だと知れたら、エドガーはベルを受け入れてくれるだろうか。

――それを考えると、どうしても言えなかった。



おい、と追ってくるエドガーの声を無視して、ベルはジルとリュカの手伝いに入った。


背中に刺さるエドガーの視線には、気づかないふりをした。