「ベルトラン・ノヴェールです」
「ノヴェール……?ここらじゃ聞かない名前だな。あんた、出身は?」
問われて、ベルは返答に困った。
まさかこの男が、ここらの住人の名前をすべて覚えているようなことを言うとは思わなかったのだ。
ここらの人間だと言えば怪しまれる。
けれど、適当な地名を答えても、いずれボロが出そうだ。
「……その、僕、孤児なんです。生まれ育ちはモンマルトルで、画家になりたくてベルシーまで来ました」
やっとのことでそう言ったが、青年は納得行かなそうな顔でベルを眺める。
「孤児、ねぇ。あんたさ、工房の徒弟が、どういう手続きを踏んで徒弟になるか、知ってる?」
「い、いえ……」
苦々しい顔で首を振ると、青年はますます怪訝な顔になった。
まずい、と察して、ベルの顔がこわばる。