フレスコ画は漆喰に絵の具が染み込んでしまうから、
描き直そうと思えばわざわざ一度乾いて固着した漆喰をすべてはがして、新しく漆喰を塗るところから始めないといけない。
自分の技術にへんなプライドを持っていたり、
反対に妥協的な絵を描く人は、あのセヴランの当てつけのような一言で、
わざわざ漆喰をはがして描き直そうとなんてまずしない。
そういう偏屈さのない、純粋に向上を求められる人は稀有だ。
その純粋さと公正さの結晶がきっと、エドガーの技術なのだろう。
「すごいなぁ……」
すごい。
梯子の上のエドガーを見上げて、単純に、ただまっすぐに、憧れた。
自分の立っているところから見ると、エドガーはずっとずっと遠く、遥か高みにいて。
雲の上の人なのだ、と。
あの背中に、追いつきたい。
あの背中を、追い越したい。
「完成を楽しみにしているぞ」と、最後にそれだけ言って聖堂を出ていくセヴランとレイエを見送って、
すぐさま次の作業に取り掛かろうとするエドガーを見て、ベルは誰にも気づかれずに、両の拳をぎゅっと握った。
「もっと、頑張らなくちゃ」
あのひとのような画家に、なりたいから。