「ベル、それ終わったら絵の具の調合お願い」
拭き掃除をしていると、優しい方の指示が飛んできて、ベルは顔を上げずに「はーい!」と答えた。
リュカの指示は好きだ。
絵の具の調合は楽しいし、リュカの頼み方は優しい。
ジルは普通にしていると飄々とした雰囲気で気だるそうだが、仕事になるとかなり厳しかった。
ベルは手早く拭き掃除を終わらせて、通りを抜けてすぐのセーヌ川まで、ぶちまけてしまった分の水を新しく汲みに行く。
ついでに汚れた布も洗って、教会の入り口近くに干しておく。
そうして聖堂に戻ってくると、ベルはリュカの元へ一目散に駆けていった。
「この色が残り少なくなってきたから、お願いできる?」
リュカが指をさしたのは、パレットの一番左側に乗せられた絵の具だ。
かなりよく使うのだろう。
ついさっきリュカが作っていたばかりなのに、もうなくなりかけている。
黄褐色。
くすんで沈んだ黄色。
そのままでも、他の絵具と混ぜても衣の色や木肌の色になり、
焼けば赤みを増して人物の顔を描くのに適した色になる、
基本のイエローオーカー。