朝からずっとジルやリュカの指示を受けて作業を手伝ってきたベルは、正午になる頃にすでにヘトヘトだった。
けれど、止まっている暇はない。
少しでも暇そうにすればすかさず、ジルとリュカの指示が飛んでくるのだ。
「ベル! 早く水汲んでこい!」
「ベル、絵の具の調合手伝って」
「ベル! 水桶は二つ持っていけ! 重いとか言ったら張り倒すぞ!」
「ベル、川へ行くならついでに汚れた布を洗っておいてくれる?」
ちなみに朝、作業を始めてすぐに二人はベルをベルトランと呼ばなくなった。
指示することが多すぎて、いちいちベルトランと言うのがまどろっこしくなったのか、縮めてベルと呼ぶのがいつの間にか定着していた。
ベルとしては、ベランジェールであった頃から愛称はベルだったので、わかりやすくて助かるが。
蹴ってぶちまけたのが汚れた水でよかった。
ほっと息をついて、ベルは水びたしになった床を、工房から大量に持ってきてある乾いた布で拭きはじめる。