「レイエさんの絵、本当に凄いんだ。画力や構成力で言えば、ルルーさんに負けない。
けれどあの人は工房に属さず独学で絵を学んできた人だから、フレスコはできない」
なるほど、と、ベルはつぶやいた。
フレスコというのは、壁画に使われる技法のことだ。
漆喰を壁に塗り、それが乾いてしまわないうちに直に絵を描く。
すると石灰に絵の具が染み込んで、漆喰は乾けば表面に当面な皮膜ができるため、
風雨にさらされても長い時間が経っても、絵が描いたときのままの状態で保存されて劣化しないのだ。
「パリでフレスコ画と言えばルルーさんの右に出る者はいない。
枢機卿はそれを知っていたから、フレスコで描かなくちゃいけない天井画だけはルルーさんに任せたんだ」
「そうだったんですか」
「だから、レイエ工房の一部の人は、ルルーさんがレイエの仕事を横取りしたって、ルルーさんを嫌う人もいるんだ。
ルルーさんは何も悪くないし、枢機卿もふさわしい人選をしただけなのにね」