そうしてしばらくして、おそるおそる顔を上げると、男はまだ不審そうな顔をしていた。
――駄目だ。
絶対に嘘だとバレている。
そう悟って、ベルは諦めた。
「……すみません、嘘です」
小さなため息とともに、吐き出す。
「本当は、親も家もちゃんとあります。けれど、家を明かすわけにはいかないんです」
「家出か」
「はい。画家になりたいと言っても反対されるので、家を出ました。だから身元が知れると困るし、徒弟金も持っていないんです」
男は無表情のまま、黙ってベルのデッサンを見つめている。
「あ、あの……?」
どうしたらいいかわからず、ベルが困惑の声を上げると。
「俺は、エドガー・ルルーという」
男は――エドガーは唐突に名乗って、無造作な仕草でベルにデッサンを返した。



