が、男はベルの手を避けて、渡そうとしなかった。
男の予想外の行動に、ベルが困ったように眉根を寄せると。
「このデッサンは、おまえが描いたのか」
男が尋ねた。
「えっと、はい。僕、画家になりたくて。どこかの工房に弟子入りしたいんですが、徒弟金を払えないのと素性が知れないのとで、断られ続けていて……」
「素性が知れない?」
「はい。……孤児で」
馬鹿の一つ覚えのように、昼間からずっと繰り返してきた嘘をつく。
すると、男が眉をひそめて、「孤児?」とつぶやいた。
心臓が一度大きく跳ねて、ベルはとっさに男から目をそらした。
それでも頭上に感じる視線から逃げるようにうつむいて、こわばった顔を元に戻そうと必死になる。



