その男性はゆっくり立ち上がり、あたしに優しく微笑む。
でも……目の奥が、笑ってない。
「一花。ずっと1人にして悪かった。今から家に帰ろう」
「えっ…。だ、誰ですか…?」
何かの嘘じゃない?
男性が発した言葉に耳を疑った。
「一花のお父さんだよ」
あたしにいないはずの父親。
生まれた時からずっと、おじいちゃんとおばあちゃんが育ててくれたのに…。
「今更なんですか⁉︎あたしの家はここです‼︎」
「そんなこと言わずに。父さんも、母さんも了承してくれたんだ」
「へっ…おじいちゃん…?」
「了承などしとらん‼︎急に来て孫を引き取るなど許した覚えはない‼︎」
「でも、一花を幸せにすると同時に会社を潤す絶好の機会なんだ。さぁ、行くよ。一花」
おじいちゃんも必死に説得してくれた。
おばあちゃんも泣いて引き止めてくれた。
「…っ‼︎嫌だっ‼︎あたしは、どこにも行きたくない…っ」
あたしの抵抗も虚しく……。
家に横付けされた黒塗りの車に簡単に乗せられたしまった。