久し振りに来た大きなお屋敷。
先を歩くお兄ちゃんの少し後ろを歩き、背の高いドアの前で止まった。
「一花。お父様に何を言われても、黙って聞き流すんだよ」
「分かった…」
数回のノックの後、部屋に入るとコーヒーの匂いが鼻を掠めた。
高級そうな黒革の椅子に座るのは、見たくもないお父さんで……。
「急に呼び出して悪いな。旺太にも感謝する」
「いいえ。お礼を言われることは何もありません」
「そうか。…一花、重大な話がある」
「はい……」
コーヒーを一口飲んだお父さんは、口角を上げて話した。
「嫁ぎ先が決まった。婚約者の方が正しいかな?」
「えっ…」
「化粧品会社のご子息だ。年齢は一つ上だがまだ年が近いから良いだろう」
「そう、ですね…」
「一花の誕生日に籍を入れるつもりだから、心構えしときなさい」
会ったこともない誰かと結婚させられる……。
そんなの嫌だよ…。

