ニアンのこれまでの人生の色を示しているように、無造作に転がっていた。それが高みから見下ろす傲慢(ごうまん)さから来たものだと言うなら、それに異議は無かったに違いない。


静まり返った部屋で、子猫のように熟睡している彼女の下に横たわる不憫(ふびん)を、辻が自分の洗濯ついでに洗ったのだった。


真っ白になった靴下を見上げていた、辻の想いなど知る由(よし)も無いニアンは、変なヤツと思いながらも、彼女なりの礼を込めた一発だった。


そんなニアンの気持ちを知らない彼は、重い体を起こそうとするが、起き上がれないふりをした。


二日酔いのような気持ち悪さは無いが、頭が少しボーっとしている。


昨夜のガンジャのせいだろう。それは、いつものことだった。


しかし、おかげで深い眠りにつけたと、そんなことを思う。


「ニアン、近こう寄れ」

ベッドで仰向けの彼が手招きで合図すると、しげしげと辻を眺めていた彼女は、好奇心を抱いた”うねうね”と鳴く子猫のようにヒョイとベッドに這(は)い上がり、四つんばいのまま顔を近づける。


手が冷たくないことを自分の額で確認すると、彼女のおでこに掌(てのひら)をあて体温を確かめた。


「熱ないじゃん、ニアン元気か?」

「げんきだぴょん」

ぶっきら棒なカンボジア語だったが、表情からは明かりがこぼれていた。


彼には、ニアンの言葉をすべて理解するだけの語学力はなかったが、不思議と心では彼女の言葉を理解していた。


一安心した辻は、「起こしてくれ!」と両手を彼女に差し出す。


ニアンには、その意味が分からなかったようで、お手をした子猫のようにキョトンとしている。

彼女の手を握り引くと、仰向けになっている辻の上にニアンがこけた。


「お前がこっち来てどうすんの。俺を起こしなって!」


本気になって身振りで説明する彼を見つめるニアンは、クスクス笑った。