「まあ、そうだね」

タバコに火をつけイスの背もたれに寄りかかりった店長は、八頭身の長い足を組み替える。


「でも、B は今の僕が二年後に10億円稼ぐなんて想像できないし、普通に考えたらまず無理って。


でも、A もB も同じ未来のことなのに、どうして片方は簡単に実現できそうで、もう片方は無理そうって感じるのか疑問に思ったんです。


それで、先週までタイのバンコクは、小汚い安宿にいたんですけど、そこで出逢った人が面白いこと言うんですよ」


「おう。何?」


店長のその声は、ロシアマフィアの極秘情報を知りたがるアメリカCIA捜査官のように興味ありげだ。


「その人は、『バナナの実がそこに生(な)ったのは必然だ』って。僕は、初めその意味が分からなくて彼に訊いたら、


『何万年前か知らないし、場所も分からないけど、そこにバナナの実が生る土の環境や気温といった様々な条件が整ったから、バナナの実がそこに生ったんだ』って言うんです」


「ほう~」


「僕はその反論を考えたんですが、結局、見つからなかったんです。それで、店長にもその反論を考えてもらいたいんですが、何か思いつきませんか?」


「『バナナの実がそこに生ったのは必然』の反論でしょ?」


「ええ」


口から吐きだされる魅惑な白い煙が辺りを支配すると、思案する唸(うな)りの小さな振動が、時計の秒針を五つ動かす。



「いいんじゃん、それで。反論は特にないよ」

その軽い返事は、唐突だった。


「そうするとですよ、先ほどのA とB の話に戻るんですが・・・」辻の口調は少し熱を帯び始める。


「”10億円稼ぐ“ということを”バナナの実“に見立てると、10億円稼ぐ条件を全て揃(そろ)えてやれば、僕が二年後に10億円手にすることが必然になるのではないかと・・・」


「そうなるんじゃん」

店長が斧で薪(まき)を割ったようにあっけらかんと即答すると、ハッハッハッハッ、と二人から自然と笑いがもれた。