夕食は、ご飯一皿と20品くらいあるタイ料理の置かれたトレーから2品選んで30バーツ(100円)。


残金の少ない彼には、安くて栄養のある料理が食べられるので助かっていた。


もやしと揚げ豆腐、きくらげの入った炒め物に、たまねぎとインゲンをトマトで煮込んだ野菜スープ、それに追加で半熟目玉焼きを付ける。


二日に一度トッピングで頼む黄身がとろっとした目玉焼きが、今の辻のささやかな贅沢だった。


タイ料理らしくない味付けに満足していた彼は、その料理の組み合わせをよく注文していた。



食事は目の前のコンビに広げられた金属製のこざっぱりした簡易テーブルで、十組ほどの買い物客が入って出てくる間には食べ終えているに違いなかった。


食事の余韻に浸るように相方のいないテーブルで、しばらく、通りを行き交う人々や他人の食事風景を眺めていた。


そこらじゅうに普通にある笑顔や話し声が、今の自分にとってはとてつもなく大きなもののように映っていた。


自分だけが周りの景色に馴染んでいないように思えたのだ。


辻は冷たいテーブルに頬杖をつき、道を挟んだ向こう側にある芝生からコンビニの一角を背景に食事をし辺りを往き来する人々と、今の自分の浮いた表情を木綿(もめん)のキャンバスに描く画家の目になり自身の姿を見つめていた。


しばらくして会計を済ますと、屋台から宿までさっき来た同じ道を戻る。


行きしなに顔を合わせた人たちが、同じ席で飲み食いしていた。


炭火で焼かれたピンクの焼き魚、香ばしそうな車エビにイカ、大きく口を開いたムール貝、どれも美味しそうに映る。


心象が暗がりとなった遠くの空に雷光を見つけると、自分に迫る追っ手から逃げるよう足早に部屋へ戻るのだった。





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