辻は、佐川が迎合(あど)を打つタイプでは無いことを見抜き、自らの経験から大人の意見を率直に言ってくれたことがなによりも嬉しかった。


それから辻は、映画“MY DATE WITH CAMERON”のあらすじと、自分の小説の類似点を語る。


「・・・どちらもネットのウェブサイトが、大きな役割を果たしているんです」


「う~ん、現実、どこまで自分のやりたいことを続けるかだよねぇ」と、生え際が上がり薄くなった髪に手を当てる。


「あれ知ってる? 赤いクリップって言ったかなぁ。クリップを物々交換して最終的に一軒屋を手に入れた男の話。日本でも結構、有名になってたよ」


「いいえ、知りません。もう、二年近く日本に帰ってないので。その話、詳しく教えてくれませんか?」


佐川によると、初めにネット上で、普通の何でもない赤いクリップを物々交換して家を手に入れると宣言。


その後、物々交換の経過を写真や動画でウェブサイトに公開。そして、その活動が全米で話題になり、数十回の交換を経て一年後、実際に屋敷を手に入れたらしい。


辻は、身体の背骨に沿って突き貫ける雷のような激しい衝撃を鼓膜に覚える。


なぜなら、すでに辻の描かれた小説には、物々交換ではないものの、ネット上で写真や動画を公開する描写がされており、佐川の話と非常に近い類似性を感じたからだった。


これもまた、ウェブという環境がなければ、実現しなかったのでは・・・。


辻の記憶には、言葉では説明できない無形の点が、夜空に輝く星のように、また一つ増えたのだった。






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