今回も冗談に違いない、と辻は思った。


しかし、旧正月が終わり、いつまで経ってもニアンは戻ってこなかった。


その間、何度も電話で会話したが、プノンペンにはいかない、と言われるだけ。


電話の声は以前と変わらぬ、ちょっとからかっているような温かい雰囲気で会話するのに、ニアンがその理由を口にすることはない。


家族やお金の問題などいろいろ思いを巡らせたが、昔の記憶を手がかりにニアンが地中に埋めてしまった本当の理由を探そうにも、辻には見つけられるものではなかった。


ニアンと離れ二週間ほど経った晩、辻にはセピア色に映るクラブで森村らとグラスを交わしていた。


「最近、どうですか?」と耳の後ろで癖毛をカールさせた森村が、土気色した辻を心配して言葉をかける。


「最近、プノンペンの生活が楽しく無くなっちゃって」

「そうなんですか?」

「ええ、彼女も実家に帰ったまま、戻らないって言ってるし、急に胸にポッカリと穴が空いてしまった感じで。


今日も2000ドル負けるは、カジノも上手くいってないし。そろそろ日本に帰ろうかと」


辻は、プノンペンの生活に惰性を感じるようになり、同時に急速に退屈を覚えるようになっていた。


「えっ! 帰ってしまうんですか?」

「はい、バンコクへ行く前にポイペットのカジノで挑戦してみて、それで上手くいかなければ帰国しようと思います」


「残念だなぁ~。同年代で話ができる人とせっかく逢えたのに・・・。ボクとしては、もう少しいて欲しいなあ」森村は、しみじみと言葉にした。


そんな決意をする数日前、宿の部屋にいた辻が、携帯にかかってきた見覚えのない番号のコールに出ると、マニーのしゅんとした声が聞こえてきた。


『アッモク、元気?』