だが、真治は、「悪いけど、オレは、ありえないと思うね」とハッキリ言い切り、持論を展開。


辻を応援しようとするヤスや森村とは対極に、真治の考えは、もっと現実を見ろと言わんばかりに、真っ向からそれを否定するものだった。


真治の反論を受け取った辻は、腹の底から滾々(こんこん)と湧き上がる嬉しさに戸惑いを隠した。


僕の考えに賛同してくれる二人は見方なんだけど、他人に同調することなく彼なりの意見を言ってくれる真治さんも大切なんだ。


こういう人こそが、狭くなった視野に客観的な考え方と正しい方向性をもたらすんだと。


真治の意見は、辻の人間性を否定するものではなく、考え方の甘さを指摘した的確なものだった。


そのことは、辻自身も理解していたし、辻にとっても、真治にとっても、お互い信頼関係があったのも大きな理由だったのかもしれない。


辻は、自分の考えを否定する真治もまた、自分の大切な仲間に思えたのだった。



一呼吸置いた辻は、事件の晩に感じた光の虚像(きょぞう)をどうにかして言葉で言い表そうと試みた。


「それで、僕、小説を書こうと思うんです」

「えっ! またどうして?」

突飛な発言にヤスが首を前に突き出す。

「全裸事件を起こす直前に見た世界と言うのが、何て言ったらいいですかねぇ。暗闇があって、その遠い先に白く輝く光の筋が見えたんです。


その光に意識を集中させると、どんどん光の中央内部に近づくことができただけで、何が全体像なのかよく分からないんです。


けど、そこに何故か“小説だ”と感じる人の温(ぬく)もりのような暖かさがあったんです」