海猿を始め、『バナナの実』の趣旨(しゅし)を理解し同意が得られた件に関しては、ウェブの【小説追記事項】というカテゴリーに、一覧としてまとめられていた。


【小説追記事項】とは、出版化が決定するまでに読者から頂いたすべての書き込みを対象に、暫定的(ざんていてき)ではあるものの、『バナナの実』本編に追記したい言葉が投稿者の名前と一緒に記されている部屋のこと。


その他に、読者のアドバイスをもとにした【変更箇所と内容】、読者の選ぶ【映画キャスト候補】、【シナリオ募集要項】などのカテゴリーも作られていた。


このように、初めて小説『バナナの実』に触れ右も左も分からない読者でも、現在の進行状況を簡単に理解できるよう工夫されていた。


辻は、書き込み内容を、ケータイ小説の空白章にただ追記するのではなく、時には原文のまま、時にはアレンジしてうまく物語となじむよう組み入れたいと考えていたようだ。




読者の方々の協力甲斐あって、誰かが何かを発言すると、それに対し他の誰かが意見を述べる。


そして、また別の誰かがそれに応答することが厖大(ぼうだい)に繰り返され、次第に四次元的な広がりを見せる。


つまり、大勢が集まり知識や情報を共有し、小説と映画、現実世界をつなぐプラットホームが形成され始めていたのだ。


実際、ウェブの議論参加者は、現実世界での世代や職業を超え多様な人々が集まっていた。


そして、中学生や年長者でも、フリーターやニートでも、価値あるアイディアや意見であれば評価されていた。