季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く

二人で一緒に部屋を出たのは初めてだった。

駅までの道のりをただ黙って歩く。

順平は電車の中で窓の外を眺めながら、珍しく私に話し掛けた。

「オマエさ…なんであいつと付き合ってた?」

「え?何、急に。」

思わぬ問い掛けに驚き、私は順平の顔を見た。

「いや…。どこが良かったんだ、あんな男。」

「どこが…?」

どこだろう?

私が聞きたい。

「どこかいいと思ったから3年も付き合ってたんだろ?」

「そうだね。強いて言えば、特別いいところがなかったからじゃない?」

「なんだそれ?」

順平は眉間にシワを寄せて怪訝な顔をした。

「胸が痛くなるほど好きだとは思わなかったから、感情が昂るとか、想いを募らせて苦しむとかなくて…。相手もそんな感じだったから、平凡でもこの人ならずっと一緒にいてくれるんじゃないかと思った…かな。」

「ふーん…。わけがわからん。」

「わかんないよね。私もなんでそんな人と幸せな結婚ができると思ったのか、わからない。」

「要するに、平凡な結婚ができそうな男なら良かったって事か。」

「だろうね。結果的にできなかったけど。」

順平がなぜそんな事を聞いたのかはわからなかったけれど、私の答えはことごとく、昔の順平を否定していると思った。

順平はそれをどう受け止めたのだろう?