季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く

さっきから順平は、私の隣で不服そうに何度も同じ言葉を呟いている。

「…ったく、なんで俺が…。」

確かに順平にとっては迷惑でしかないだろう。

「めんどくせぇな。」

「ごめん…。」

申し訳なくて、運転席でハンドルを握る順平の横顔をまともに見る事ができない。

そういえば、あの頃順平は車の免許を持っていなかったな。

私と離れてから免許を取ったんだろう。


壮介と2年間一緒に暮らしたマンションの前に着いた。

マンションの外観を窓越しに眺める。

ついこの間までは当たり前のようにここに帰っていたのに、もう随分前の事のように感じる。

私の居場所はもうそこにはない。

荷物を運び出したら二度とここに来る事もないだろう。

順平はエンジンを止めてドアに手を掛けた。

「とりあえずさっさと終わらせるぞ。」

「うん。」


部屋のチャイムを鳴らして、壮介が出てくるのを待った。

鍵を開けて“ただいま”と中に入れた頃とは違うと思い知らされる。

ドアを開けた壮介は、私の後ろに立っている順平の姿に驚いていたようだけど、何も聞かなかった。

だって今更、私が誰とどうなろうと壮介には関係ないから、きっと興味もないはず。

荷物は思っていたほどの量ではなかった。

いくつかの段ボール箱と、大きめのバッグに荷物を詰めた。

もっとたくさんあったと思ったのは、私がいつも二人分の洗濯や衣替えをしていたからなのかも知れない。