季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く

頼んでもいないのに、順平が布団を貸してくれるなんて思ってもみなかった。

それは純粋な優しさなのか?

まさか後で何か、無茶な要求とか…。

有り得ないとは言い切れないけど、順平のおかげで今夜はあたたかい布団で安心して眠れる。



とりあえず今日は順平のシャンプーやボディーソープを借りてシャワーを済ませた。

パジャマに着替えて布団に入り、目を閉じる。

明日、必要な物を買いに行こう。

残りの荷物も取りに行かなくちゃ。

派遣会社に電話して仕事を紹介してもらわなくちゃ。

それから…。

明日こそ“壮介との結婚を延期します”と、両親や親戚、友人に報告しなくちゃ。



…嘘だけど。




ぐっすりと眠り、気持ちよく目が覚めた。

身支度を済ませ出掛けようとすると、リビングのテーブルの上に走り書きのメモと鍵が置いてあった。


“戸締まり忘れるな。絶対なくすなよ。”


なるほど、この部屋の合鍵だ。

合鍵を渡されたとは言え、そこにまったく色気はない。

私も荷物を運び出したら、合鍵返すのを忘れないようにしなきゃ。

それが済めば私は、壮介と2年間一緒に暮らしたあの部屋に、二度と戻る事はない。

壮介だって同じだ。

彼女との新居を見つけたら、嬉々としてあの部屋を出て行くんだろう。

私との日々などなかった事にして。