季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く

「夜桜、綺麗ですね。」

春の夜風がフワリと桜の花びらを運ぶ。

私の髪に舞い降りた花びらを、早苗さんが指先で摘まんだ。

「明日は朱里の誕生日か。」

「そうです。今日が20代最後の日ですよ。20代は楽しい事もつらい事も、悲しい事も嬉しい事も、出会いも別れも、ホントにいろいろありました。」

「そのいろいろあった20代最後の日のしめくくりに…朱里、俺と結婚しませんか。」

「……え?」

突然のプロポーズに驚いて、早苗さんの顔をじっと見た。

「…イヤなら断っていいんだよ。」

「い、イヤじゃないです!!」

早苗さんは私と向かい合わせになって、両手で優しく腰を抱き寄せた。

「じゃあ…朱里、俺と結婚して下さい。」

「ハイ…喜んで。」

早苗さんは嬉しそうに笑って、私をギュッと抱きしめた。

「朱里、一生大事にするよ。」

「私も早苗さんを一生大事にします。」


桜の花が舞い散る中で、私たちは優しいキスを交わした。

嘘も偽りもないまっすぐな気持ちで、大切な人と生涯を共にすると約束した。


キラキラ光る想い出は胸にしまって、大切な人と手を取り合って、この先に続く未来を自分の足で歩いていく。



これから先の人生に、サクラは要らない。