季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く

季節は移り変わり、春。

満開の桜が花吹雪を散らす。


バーの仕事をいつもより早めに終えると、早苗さんが夜桜を見ながら散歩しようと言った。

日付は既に変わり、明日は私の誕生日。

今日は20代最後の日だ。

思えば20代はいろいろあった。

陽平と出会って恋をして、突然陽平を失う事を恐れて逃げ出した。

そして壮介と出会い、一緒に暮らして、婚約して、結婚の直前に破談になった。

それから順平と出会い、嘘や偽りに翻弄され、陽平の死を知って悲しい思いもした。

そして早苗さんと出会い、再び愛し愛される事の喜びや幸せの意味を知った。


私の予定では、何がなんでも20代のうちに結婚しているはずだった。

今になって考えてみるとそれが滑稽にも思えるけれど、あの時私は私なりに幸せを求めて必死だったんだ。

とりあえず結婚すれば幸せになれると思っていたんだから、自分でも笑ってしまう。


私は私なりに進めばいい。

幸せが結婚の延長線上にあるというのも間違いではないかも知れないけれど、今は、結婚は幸せの延長線上にあるものなんだと思う。


早苗さんと手を繋いで桜並木道を歩きながら、そんな事を考える。