季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く

1週間後。


私はわずかばかりの荷物を持って、早苗さんの部屋に引っ越した。

順平も荷造りを終え、明後日にはマンションを引き払って地元に帰るそうだ。

夕べ、私はたくさんの料理を作り、順平とビールで乾杯をした。

お酒を飲んでたくさん話した。

順平と陽平の幼い頃や中学時代の話をいろいろ聞かせてくれた。

二人はとても仲の良い兄弟だったようだ。

順平は部屋に戻る前に“陽平に幸せな思い出を作ってくれてありがとう”と言った。

そして私を抱きしめて“いろいろごめんな。幸せになれよ”と言った。

その時私は、順平の腕の中で、陽平のぬくもりを感じた。

朝、私が起きると順平は出掛けた後で、テーブルの上に“合鍵置いてけよ”と書き置きだけが残されていた。

天の邪鬼な順平の事だ。

しばらく一緒に暮らしたから、別れの瞬間が寂しくて、わざと出て行ったのかも知れない。

私は早苗さんに手伝ってもらって部屋から荷物を運び出した後、順平に書き置きを残した。


“順平、元気でね。
短い間だったけどありがとう。
順平も幸せになってね。”


私はきっと順平と過ごした短い日々の事も、陽平の想い出と共に忘れないだろう。

ほんの少しだけど、順平はもう一度、陽平の夢を見せてくれた。

つらい事の方が多かったのに、今となっては、それも無駄じゃなかったと素直に思えた。