季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く

「ウイルス性の病気ではなかったから。…疲れてたのかな。少しゆっくり休むといい。」

「あ…ファミレスに電話しとかないと…。」

「郵便局のそばのファミレスだよな?代わりに電話しておくから。心配しなくていいよ。」

早苗さんは私の頭を優しく撫でてくれた。

久しぶりのこの感触に、胸が痛くなる。

「朱里の身内って事でいいかな。さすがに父親って言うのは自分でもヘコむし…。」

早苗さんは笑いながらそう言ってから、少し寂しそうに私を見た。

「ホントは…朱里の恋人です、って…言えたらいいんだけどな。夫です、っていつか言えたらもっといい。」

「……。」

何も言えなくて、早苗さんから目をそらした。

「ごめん、こんな時に言う事じゃないな。」

早苗さんはポンポンと私の頭を優しく叩いて立ち上がった。

「電話してくるよ。ついでに飲み物でも買ってくる。ゆっくり休んでて。」


早苗さんが病室を出て行くと視界がぼやけて、溢れた涙がこめかみを伝って流れ落ちた。

一緒に暮らしているのに、順平は私が熱を出している事にも、部屋にいる事にさえ気付いてくれなかった。

私に何があっても順平は気付かない。

私は順平に愛されてなんかいない。

私も、今の順平を愛せない。

一緒にいてなんの意味があるんだろう?