季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く

動物園を出た後、夜景の綺麗に見える湾岸道路をドライブした。

カーステレオからは往年の洋楽の名作と言われるスローナンバーが流れている。

早苗さんはハンドルを握りながら、時折その歌を口ずさんだ。

低くて優しい甘い歌声が私の耳に流れ込む。

「歌…上手なんですね。」

「ん?昔、音楽やってた頃があるよ。」

「歌ってたんですか?」

「うん。いつの間にか現実の厳しさに流されてやめちゃったけどね。」

当たり前だけど、早苗さんには早苗さんの過去がある。

早苗さんが私の過去を知らないように、私も早苗さんの過去はよく知らない。

でも今は、それでいいと思う。

早苗さんをもっと知りたいと思った時は、きっと私が早苗さんを好きになった時だろう。



しばらくしてから、夕食をどうしようかという話になり、昼はイタリアンだったから夜は和食にしようという事になった。

少し敷居の高そうな上品な佇まいの和食の店に入り、季節感溢れる色彩の鮮やかな懐石料理をご馳走になった。


こんな高級感の漂う店に入ったのは初めて。

壮介とはいつもファーストフードとかファミレスとか、気軽に入れる手頃な店ばかりだった。

同棲を始めてからは外食なんてほとんどしなかったと思う。

その分、紗耶香につぎ込んでいたんだろう。

別にお金をかけて欲しいというわけではないけれど、早苗さんといると、私が壮介にいかにぞんざいに扱われていたかに気付く。