季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く

やや間があって、私の唇に何かが触れた。

ん…?何これ…?

ゆっくり目を開くと、早苗さんがクスクス笑いながら人指し指を私の唇に押し当てている。

「好きでもない男の前で、無防備に目なんか閉じたらダメだよ。」

「っ…!!」

恥ずかしい…!!

絶対キスされるんだと思ってた…!!

「俺はしたいんだけどね…朱里の気持ちが俺に向くまで待つって約束したし…キスなんかしたら朱里の全部を俺のものにしたくなって…キスだけじゃ済まなくなる。」

早苗さんはいつものように私を抱きしめて、おでこにほんの少し触れるだけのキスをした。

「今日のキスはこれで。もしいつか朱里が俺を好きになってくれたら…その時はまた誘ってもいいかな?」

早苗さんの腕の中で、私は小さくうなずいた。

「そんな日が来るの待ってる。」

私の髪を撫でながら、早苗さんは優しい声で囁いた。


ゴンドラが地上に近付いて来ると、早苗さんは私を抱きしめる腕をほどき、もう一度手を繋ぎ直した。

「半分くらいは長年の夢が叶ったかな。」

少し嬉しそうな早苗さんの横顔を、私はドキドキしながら見つめていた。

好きになりそう…。

もっと早く出会っていたら、なんの迷いもなく好きになっていたかも知れない。