マンションの前に、見覚えのある車が停まっている。

その車のそばでは、マスターが笑って手を振っている。

「朱里ちゃん。」

「おはようございます。お待たせしてごめんなさい。」

「大丈夫、さっき着いたとこだからね。さ、どうぞ。」

マスターは助手席のドアを開けてくれた。

自然にエスコートができるあたり、マスターはやっぱり大人なんだな。

ちっともイヤミがない。

こんなふうにスマートな身のこなしでエスコートしてくれた人、今までいなかった。

かなり新鮮。

助手席に座ってシートベルトを締めた。

マスターも運転席に座り、シートベルトを締めた。

前にこの車に乗ったのは壮介の部屋に荷物を取りに行った時で、運転席にいたのは、めんどくさそうにブツブツ文句を言う順平だった。

今日はいつもと少し違うマスターがいる。

…なんか変な感じ。

「じゃあ行こうか。」

マスターはゆっくりと車を発進させ、前を向いて運転しながら話し掛ける。

「どこか行きたい所はある?」

「うーん…。デートスポットみたいな場所、あまりよく知らないので…。マスターにお任せします。」

「じゃあ…ドライブでもしながら考えよう。それと…今日はマスターって言うのは無しで。」

「えーと…。」