季節外れのサクラの樹に、嘘偽りの花が咲く

慌てて逃げようとしたけれど、順平は軽々と私を捕まえ腕の中に閉じ込めた。

「さぁ、どこをどうして欲しいんだ?ん?」

「やだ、離して!」

「離さん!!ここか!!」

脇腹をくすぐられ、私はくすぐったさのあまり身をよじって大笑いした。

「やだ、やめて!お願い!!」

「もっとやってやる!!」

「きゃあぁ!!もうダメだってば!」

順平がくすぐるのをようやくやめた時には、笑いすぎて息が上がっていた。

「どうだ、まいったか。」

「ま…いり…まし…た…。」

「じゃあこれで許してやる。」

ようやく解放されると思ったら、順平はぐいっと私を抱き寄せて、唇を重ねた。

今までの乱暴なキスとは違う、優しいキスに私は戸惑う。

大好きだった順平にそうされているような錯覚に陥り、抗う事も忘れて目を閉じた。

他の人に、あの頃の順平と同じキスができるわけないのに。


長いキスの後、順平は私を抱きしめた。

「今日はイヤじゃなかったのか?」

「……わかんないよ…。」

「…何考えてる?」

「…秘密。」

「またそれか…。」

順平は苦笑いを浮かべて、私から手を離した。

「おやすみ。」

「…おやすみ。」

自分の部屋に入り、目を閉じて指先で唇に触れた。

まだ順平の唇の感触が残っている。

なんで急にあんなに優しいキスなんて…。

順平が何を考えているのかわからない。

好きでもないくせに、私を惑わせてどうしたいんだろう?