あたたかい冬の日に雨降り


 “いつか、この空席に”――、なんて考えていると、奥の部屋からぐずる声。


 それは次第に大きくなり、奏汰と葉月は目を合わせて困ったように笑う。


「起きちゃったみたいだね」


 そう声を揃えて言ったふたりは同時に立ち上がり、奏汰はなんとも言えない微妙な顔して「俺が見てくるよ」なんて呟いた。


 なんとなく奏汰の態度に引っかかることがあって、だけどそんな些細な表情の変化に葉月は気付かない。


「奏汰はイチと、話でもしながら飲んでていいよ? ほら、わたし行くから」


 時間的にミルクかな、どうだろう、とぶつぶつ独り言を言いながら、葉月は奥の部屋へと吸い込まれていく。


 残されたのは、微妙な顔した奏汰と俺。


「あー……、とりあえず飲む?」


 少しの沈黙の後、気まずそうな顔をしながら奏汰はキッチンからビールやら日本酒やらを持ってくる。


「……仕事どんな感じ?」


 奏汰は缶ビールのプルタブをあけ俺に渡しながら、とってつけたように話し出す。


 まるで、俺が違和感を覚えていることに気付いてて、だけどそれを悟らせたくないみたいな、そんな感じ。