「無理矢理休みとったからな」
「そんじゃあ、帰った後上司にどやされるんじゃない? イチどんまい」
甘くてあたたかいココアに口をつけながら、久しぶりに3人で会話した。
俺の隣は空席で、目の前には葉月、葉月の隣には奏汰がいる。
美月がいなくなってから早くも10年以上が経ち、その死の鈍い痛みは胸に馴染んだ。
葉月と奏汰は、きっと俺以上に美月に対していろいろ思うことがあるだろうけど、それを顔に出すこともない。
受け入れたのか、それともふたりでなにかを決めたのか。
とにかく、こいつらが美月のことで頭を悩ませる日は、もう来ないんだろう。
こいつらのことはよく知ってたし、最初から心配なんてしてなかったけど、それでもこうして穏やかに暮らしているところを見ると、心底ほっとする。
……ただ、やっぱりこうしてテーブルについて、こうして俺の隣に空席ができるのを見ると、なんとなく4人でいた頃が思い出されてしまう。
もしあの日なにも起こらなくて、今日も美月がここにいたら、なんて無意味な妄想すらしてしまう。
そんな未来があったとして、今日この日に4人で集まれるかなんて、わからないけど。
目の前で談笑するこのふたりは、そんなこと考えもしないんだろう。
過去があって、今があるから。
今がすごく、幸せなんだろうから。



