3月なんて、暦で言えば春だけど。
雪があまり降らない東京と違い、こっちの地域では2月あたりに積雪量がピーク。
3月もその溶け残りがあったり、下手するとさらに雪が積もったりするから、俺がかつて住んでいた場所では、3月は完璧に『冬』だった。
まあ、気温は春に向けて上がりつつあるし、天気のいい日は増える。
もちろん空気は冷たいけど、この時期は俺からすると『あたたかい冬』、そんな感じだ。
東京から数時間、新幹線に乗って着いた俺の生まれ育った町は、やっぱり寒くて歩いて来た道のりには足跡が残っていた。
奏汰から、『コンビニで葉月が待ってるから』とメッセージが届いたのは、今から5分ほど前のこと。
駅近くだからか明るいし人通りも多くて、夜だけど思ったよりは視界が開けている。
東京の静まらない夜の街、そこで何年も暮らしていればこのくらいの灯りは暗いと言えるけど、この町には、やっぱりこのくらいの明るさがよく馴染んでいるなと思う。
夜8時前、待ち合わせ場所のコンビニは数十メートル先にある。
2年くらい会っていなかったけど、衣服をたくさん着込み俺に向かって手を振る彼女の姿は遠目からでもはっきりとわかり、大股で歩み寄った。