「ただいま」
大切だったあの町から今大切にしたい場所に帰ってきた。
部屋の奥から聞こえる、スリッパで駆けてくる音。
優しく微笑む、大事なやつ。
背中に回ってきた腕とか、優しく微笑む顔だとか。
そういうあたたかさを感じて過ごしたら、そのうち正解とか間違いとか考えること自体、馬鹿馬鹿しくなってくるんじゃねーかな。
――今年の冬は、あたたかい。
澄んだ空気の匂いとか、忘れそうなくらいに。
「なあ」
終わりにしようか。
こうやって俺だけが、お前に甘えるのは。
「ちゃんと俺の顔見ろ」
俺の胸に埋めていた顔を上げ、じっと目を見つめてくるこいつの瞳には。
「ソラ。ただいま」
きらきら光る、冬の雨。
「……おかえり」
【END】



