時間が過ぎるのは自分が思っていた以上に早く、あの季節はすぐにやって来る。


 まだ春の匂いがしないこの時期は嫌いでもあり、それでも好きだって言ってしまいたくなる、俺にとって少しだけ苦い季節。


 甘さなんて1ミリもない。


 いい思い出、なんてまだ思えない。


 思い出すと苦しくなるし、泣きたくなる。


 ほんの少しの後悔が、俺を襲う。




 数えてみれば、この季節に対して嫌に思うことなんか片手の指で足りるけれど、嫌な理由ひとつひとつが重すぎて、好きなところなんて思い浮かべられない。


 それでもきっぱりと『嫌い』って言いきれないくらいには、俺はこの季節が好きなんだろう。


 理由なんて、わからない。


 わからないけれど、それでも『嫌い』なんて言えない。




 ……今年の冬はどうだろう。


 あの時より、少しはこの季節を『好きだ』と思えるようになるのだろうか。