「……あの時さ、もしも俺がお前に告白してたら、どうしてた?」
こんな質問、結婚してから数年しか経たないこいつらにとって、なにかを壊すきっかけになりかねないって思うだろ。
だけど、もうこいつらは大丈夫なんだよ。
奏汰はまた形容しがたい顔をして、じっと座っている。
いろいろ思うところがあるんだろう。
葉月は、困ったような顔で笑ってる。
別に、どんな答えでも構わない。
あの時は戻って来ないし、過去は変えられない。
それに、俺は今が――。
「……幸せになれたと思うよ。きっと、すごく大切にしてもらえたと思う」
でも、と言葉は続いた。
「でも、それでわたしが幸せになれても、優しいイチはきっと幸せになれなかったと思うよ」
俺が好きだと言ったことに対してはなにも言わず、葉月は凛とした顔でそれだけを言った。
だけど、その後すぐにふにゃっと表情を崩し、
「わたしね、いつでも“今”が一番幸せだなって思えるようになったの」
過去は、変えられない。
つらいことも悲しいこともあって、消化しきれないほどの後悔がある。
でも、そういう過去があるから今があって、そういう後悔とかつらい過去とか、気持ちひとつで『これでよかった』、『正解はこれだった』って思えるようになった。
過去やたくさんの後悔があった事実を変えられなくても、自分でそれを正解にしてあげられるようになった。
葉月は、そう言った。



