「今日の日替わりは…。」

志信は箸立てに手を伸ばしながら、お皿に乗ったおかずを見て、ふと手を止める。

「あ…酢豚…。」

「あれ?嫌いだった?」

「いや、好きだけど…。」

志信はスプーンで酢豚をすくい、口に運ぶ。

(酢豚食べるの、あれ以来かも…。)

本社の社員食堂の酢豚を食べて、以前は好きだったはずの社食の酢豚より、薫の作った酢豚が一番美味しいと思った。

その晩、気まずくなったけれど素直に謝り、明日の晩御飯は酢豚を作ってと頼んだ。

翌日の晩、二人でキッチンに立って酢豚を作った。

上手になったね、と薫は誉めてくれた。

薫を背中から抱きしめてキスをした。


“一緒にいるよ、ずっと。”


あの時の薫の言葉と笑顔が脳裏に蘇る。

薫はどんな時も、ずっと一緒にいると言ってくれたのに、不安を拭い去れず、その言葉を信じる事ができなかった。

薫が離れてしまう事を恐れて強く抱きしめたはずなのに、薫を一方的に突き放し、その手を離してしまったのは自分だった。

(やっぱり…薫の酢豚の方が美味いや…。)