冷たい舌

 


 帰宅するたび、透子は御神体に挨拶をする。

 祭壇の上の中央の大きな鏡に手を打って頭を下げたとき、すっと後ろの障子が開いた。

「龍也?」
 目を開けて、透子は振り返る。

「どうしたの? 珍しい」

 龍也は一瞬物言いたげに透子を見たが、黙って側に来る。

 そして、ちゃんと奇麗な姿勢で手を打った。

 透子はそんな龍也を微笑ましげに見遣る。

「やれば出来るじゃない」

 目を開けた龍也は、透子の方に体ごと向き直った。

「お前、春日と出かけてたんだって?」
「うん、そうよ」

「あいつと結婚するのか?」

「私が? 春日さんと?」

 透子は、あはは、と笑った。

「ないない、それはない」

「じゃあ、二人で出歩いたりすんなよ」
「あら、どうして?」

 真摯に自分を見つめる龍也が、久しぶりにちゃんと年下の弟に見えて、お姉さんらしく訊き返す。

「その気がないのに、優しくしたら可哀相だろ。
 それに、お前はすぐ情が移るんだから、ややこしいことになっても知らねえぞ」

「いっちょまえの口聞くのねえ」

 はん、と龍也は鼻を鳴らす。

「お前よりは経験豊富だからな。
 でも、和尚にしたって、そうだぞ。あいつのこと好きじゃないんなら、べたべたすんなよ」