冷たい舌

 



 夕陽を反射させながら出ていくシルバーのベンツを眩しく見送ってた透子は溜息をついた。

 ─戦うべきだ……か。

 帰ろうと振り向いて、びくりと足を止める。

 石段の下の鳥居に寄りかかる黒い影に気づいたからだ。

「か、和尚。いつから居たの」

 彼は組んでいた腕を解き、側まで来た。

「さっきから― 春日は気づいてたみたいだけどな」

 そ、そう、と言いながら、飲み込む唾がうまく通らなくて、苦しかった。

「さっそく、春日と会ってんのか」

「うん。あの、お姉さんの誕生日のプレゼント買いに行くの、付いて来て欲しいって言われて」

 そうか……と和尚は遠くを見ている。

「忠尚、帰ってきた? もう夕方だけど」

「知らねえな。俺、今、外から帰ってきたばかりだから。

 忠尚がどうかしたのか?」

 透子は昼間の事情をかい摘まんで話した。

 すると、和尚は、ああ、加奈子ね、と言った。

 和尚が女の名前を覚えているなんて、珍しいことだった。

 ちくり、と胸が痛む。