冷たい舌

 ね、と加奈子を見る。

 加奈子は黙って頷いた。

「あのっ、私たち、お茶飲みに行くところだったんで。それじゃっ」

 怪しいくらい素早く去ろうとするその腕を忠尚が掴む。

「待てよ。
 まだちゃんとお前等の話、聞いてないぞ」

「帰ってから、帰ってから話すって」

 小声で叫ぶ透子はこれ以上、人の恋路を邪魔したくはないようで、じたばたと生け捕りにされたガチョウのように暴れている。

 春日はつい、口を挟んだ。

「忠尚くん、心配されなくても、暗くなるまでにはお送りしますから。

 お話はそれからにされたらいかがですか。

 デートを中断されると、彼女に悪いでしょう」

 透子の前でわざわざ『デート』と言ったのは、つい出てしまった厭味だった。

 察した忠尚に睨まれる。

 そこへまた、尻馬に乗った透子が舌を出した。

「忠尚が暗くなるまでに帰ってくればだけどねっ」

 忠尚は無言で、掴んでいた透子の腕を捻る。

「痛い、痛いっ。
 放してよおっ」

 どうも、透子という女は自分の置かれている状況をいまいち理解しないらしかった。

 だが、泣いて詫びる透子の可愛らしさに、悪いと思いながらも、春日は噴き出してしまう―