冷たい舌

「遠目にだけど、睨まれたような」

 目が悪い分、透子はわずかな気配も見逃さないようだ。

 遠慮がちに言う彼女に、忠尚は、じゃあ、俺が後で叱っといてやる、と言った。

「ええっ。
 いいよっ」

 透子が慌ててそれを遮る。

 確かに更にややこしくなるだけだろう。

 だが、そんな透子には構わず、忠尚は腰に手をやり、彼女を見下ろす。

「だいたいな。お前も睨まれたら睨み返せよ。

 俺にとっては、替えのきく恋人より、お前の方が大事なんだから」

 しかし、この平和主義的な透子に、そんなことができるはずもない。

 それにしても、彼の透子に対する忠誠心のようなものには驚ろかされていた。

 どうやら、ただの軽い男ではないらしい。

 信号が変わり、慌てて追いかけてきた女の子に気づいて、透子は、
「じゃあ。私たち、もう行くね」
と逃げ出そうとした。

 待てよ、と忠尚が透子の襟首を掴む。ひゃんっ、と猫の子のような声を上げた。

「まだ、なんでお前らがこんなとこに居るのか聞いてねえぞ」