冷たい舌

 つい、透子が見ていた方を振り返ると、ちょうど顔を上げた忠尚と目が合ってしまった。

 一瞬、驚いた顔をした後、険しい表情になる。

 忠尚はいきなり、赤になった信号を突っ切ってきた。

 いきなり走り出した彼に、取り残された女の子が何ごとか叫んでいる。

「透子っ!」
 追いついた忠尚は息を切らし、透子の肩を引く。

 その勢いに彼女は小さな悲鳴をあげ、よろめいた。

 また腹の立つことに、見越したように忠尚はそれをうまく抱きとめる。

 その弾みに透子の手は自分から離れていた。

「お前っ、なに逃げてんだよっ」

 忠尚から離れた透子は手を合わせ、頭を下げる。

「ごっめーんっ。
 今、一人に見えたから、手ぇ振っちゃった!」

 なんだ、そんなことか、と溜息をつきながらも、忠尚はまだ警戒をとかずに言った。

「いいよ、別に。
 あれはほら、大学のとき、家庭教師してた子だよ。

 そんなんじゃないから」

「……そんなんじゃないこと、ないんじゃないかなあ」

 ちらと透子はそちらを窺う。