冷たい舌

 おまけに透子は高所恐怖症で、階段も一人では降りられないのだと言う。

「あれ? でも、透子さんち、すごい石段があるじゃないですか」

「だから、下りは裏の参道を通るんです。

 和尚たちがいるときは、何も言わなくても、手を貸してくれるんですけど」

 ああ、そうなんですか、と言いながら、少々面白くなかった。

 あの忠尚などは、実にスマートに絶妙のタイミングで手を差し出すのだろうと思うと特に。

 だが、春日はそんな感情は押し殺し、微笑みを浮かべて言った。

「よかったですね。今日からまた勝手に手を貸してくれる人間が増えましたよ」

 え? と見上げたあとで、すみません、と照れたように俯く。

 まだ、実際に貸したわけでもないのに、お礼を言ってくれる透子に笑った。

 そんなこんなで、うまい具合に煙に巻き、透子に手を放させなかった。

 いつもなら、ああいう無作法なおばさんたちは嫌いなのだが、今日ばかりは感謝したい気分だった。

 腕を組むというより、はぐれないよう、透子の手が微かに触れているだけだったのだが、それでも上機嫌で春日は言った。

「でも、そうか―
 透子さん、高所恐怖症なんですか。

 じゃあ、今度、一緒に遊園地行きましょうね」

「……なんでですか」

 透子の顔つきがおかしくて、春日は弾けるように笑った。