冷たい舌

 透子が一番好きなのは、昔、八坂祭りで一緒に舞っていた頃の、あの真っ白な装束を着ていた和尚だ。

 だが、もう舞うこともない今、和尚が神道の衣(ころも)を身に付けることはない。

「なんでもないよ」

 もう一度、そう繰り返す。

「お前、昔から何かあるときに限って、なんでもないって言うな」

「……そうだっけ」

 蒼く月に照らされた道は、後少ししか残ってなくて、もう少しこのままで居たいと思う自分を透子は恥じた。

 タタッと前へ出て、勢いよく振り返る。

「もう此処でいいよ」

 どうして? と和尚が見下ろした。

「すぐそこだから。
 うちも皆寝てるだろうし。

 和尚、早く帰りなよ。疲れてるでしょ?

 それとも夜道に一人が怖いなら。もう酔いがさめたから、カウンタックで送ってあげようか」

「今そんなことしたら、吐くぞ。
 それに此処まで送ってきた意味がないだろうが」
と言う和尚に、ごもっとも、と笑って手を振った。