冷たい舌

「俺だけじゃねえだろ。お前も相当行ってんの、俺、知ってんだぞ」

 ぎくり、と透子は笑顔を止める。

「こう見えても、顔、広いからな」

 ちっ。やなやつ。

「だって、いろんな人と知り合いになるのは楽しいし。
 まあ、何事も経験かなー、なんて」

「お前、実は結構、色々やってるよな。
 コンパから、ドラムからカートまで」

 そのおとなしげな風貌に反して、意外にチャレンジャーな透子に、今更ながら呆れたように指を折りながら忠尚が言う。

 透子はちょっと照れたように、グラスを口許に当てたまま言った。

「だって、なんでも試してみないと、わかんないじゃない」

「じゃあ、試してないのは、男だけか」

 呑みかけたモスコを噴いた透子に、忠尚が笑いながら言った。

「俺が協力してやろうか?」
「結構ですっ!」

 忠尚は、あっけらかんとした顔で笑い飛ばす。

 うう……。コンパ行ったら、こんな奴ばっかだから、厭になって行かなくなったんだよーっだ。

 そして、今更ながらに、あんな空気の中に、和尚に入って欲しくないと思った。

 透子にとって、和尚は、憎まれ口をきく幼なじみであると同時に、犯すべからざる神聖な存在でもあるのだから。