冷たい舌

 



 戸口で振り向き、投げやりに言う。

「お祖父ちゃん。私、もう出かけるから」

「忠尚とか」
「そう言ったじゃない」

 何故か、公人はあまり好ましくない顔をした。

「気をつけろよ、透子」
「なにを?」

 公人は、深い吐息を漏らす。

「わしゃあ、お前が心配なんじゃ。

 どうもこう、ぼーっとしとるというか、警戒心が薄いというか。

 純潔を守って、一生、龍神様の巫女でいるんじゃろうが」

「お祖父ちゃん……忠尚と行くんだけど」

「わかっとるわかっとる。
 いいから、早よ行け」

 公人は、しゃきっとしない孫娘を、煩そうに手で追い払った。

 なによ、もう……。

 透子は不可解な公人の言動に、まだ首を捻りながら、居間を出ていった。