冷たい舌

「……こっ、こんのくそババアーっ! 戻ってこーいっ!」

 真上を見て叫ぶ和尚の肩を、やめなさいよ、と透子が溜息混じりに引いた。

「本当に戻ってきたらどうすんのよ」

 そのとき、微かな声がして、力を放出しすぎたせいか、気絶していた加奈子が寝返りを打った。

 それに気づいて和尚は吐き捨てるように言う。

「連れてけよ、その女」

 厭そうな顔をする忠尚の代わりに、はいはい、と天満がまだ意識を取り戻さない加奈子を肩に担ぐ。

「行くよ、忠尚」
「え、でも―」

 忠尚は透子たちを交互に見遣る。
 天満は肩をすくめて見せた。

「どうせ、封印が効くまでの数日間の恋人同士。放っておいてやれば?」

「え。でも―」

「行きますよ、忠尚くん」
と春日が忠尚の肩を引く。

 え、でも― と繰り返しながら、忠尚は引きずられていった。

 林に消える直前、春日がこちらを見て、少し笑って見せた。

 淵には二人だけが取り残される。