冷たい舌

 あんな簡単に願掛けくらいで淵の邪霊と結びつけるのはおかしいと思った。

 このババアが手を貸していたのだ。今日、この日に淵が限界を迎えるように、加奈子の憎悪を増幅させて。

「大丈夫だ。のちに影響がないよう、その娘と忠尚の記憶は消しておく」

 ええっ!? なんで俺っ!? という顔をして、忠尚が振り向いた。

「この二人に淵の操り方を覚えさせておくと、ロクなことがなさそうだからな」

「待てこら、記憶を消せばいいってもんじゃねえだろ。透子、お前も何か言ってやれ。

 よく考えたら、お前、血まで全部入れ替えさせられて、完全に龍の眷属にされてるじゃねえか」

 一応、今の龍神は和尚だが、本当のところ、力を預かっているだけに過ぎない。

 あくまでも、この淵の龍神は、あの大陸からやってきたもので。

 透子はその血で身体を染め替えた彼の眷属ということになる。

 お祖母ちゃん、と透子は祈るように手を合わせ、おずおずと呼びかける。

「あの~、私、お祖母ちゃんに貰ったお金で、カウンタック買っちゃったんだけど~」

「お前が詫びてどうする!?」

 薫子は透子にも似た美しい切れ長の眼で笑う。

「あれはお前に、悔いなく生きよと渡した金だ。好きに使えばいい」